【代表インタビュー③】千葉県の台風被害と建築業者の動きについて<前編> はこちら
全木協の活動の県内での認知について
――現在も新たな問い合わせがあるということですが、県内での認知がまだ広がりきっていないのでしょうか。
ほとんどが新規の問い合わせですね。だからまだ知らない人もいるのではないかと思います。最初は市役所などの窓口にフリーダイヤルを記載したポスターやチラシを置かせてもらいましたが、それだけでは届かないだろうということで、地元の新聞に広告を出したり、千葉県中の郵便局や銀行、信金組合などの金融機関の窓口にもポスターとチラシを置いてもらったりしました。その結果、現在はまた少し数が増えてきましたね。
とはいえ罹災証明をとって、「工事が終わりました、補助金をください」と言ってくれている人は、8万7千軒のうちまだ半分もいないんですよ。全員が全員補助金を使うわけではありませんし、何割かは火災保険だけ使って終わりという人もいます。修理に着手していない人、まだ見積もり中の人、待っている人、それが半分までいかずとも、まだ何割かはいるというのが現状です。
――今後さらに補助金の認知を広めるような広報的な活動もお考えですか?
我々ができることにはやはり限界があって、被害に遭われた方々が自ら罹災証明をとって補助金をもらってと、少しでも進めてもらうには、被災者の人と一番距離が近い各市町村の方から案内してもらうのが一番早いと思います。我々は一民間の業者ですから、どうしても民間業者が「直しますよ」というのは少し営業っぽく聞こえますよね。それよりもやはり自治体の方から「こういうところがあるから使ってください」と言ってもらった方が当然信用がおけます。ですから行政の方でもっと案内を出して頂きたいと思っています。そのため案内を出すためのチラシを作るなどの実務は我々の方で行いながら、県の方にも積極的に動いていただいています。
例えば先月にはなかなか復旧が進まない館山市、鋸南町、南房総市で、被災者の人にアンケートを取りました。「今の状況はどうですか?」「どこに依頼していますか?」「進まない原因はなんですか?」などというものですね。そのアンケートの結果がもうそろそろ返ってくると思いますが、そういった状況の把握をもっと行い、現場を知らなければ我々も有効な手が打てません。
地元の広報誌に出すとか、もう一度新聞に出してみるとか、新聞やテレビというマスコミの媒体というのは影響もあります。特にテレビは多くの人が見ているので、問い合わせは一気に増えます。しかし現状テレビで報道していることといえば「大変ですよ」という状況ばかりで、ブルーシートがまだかかっている、まだ雨漏りしている、また屋根が剥がれている、ボランティアがいない、だから「大変ですね」で終わってしまっています。状況を報道してくれるのはありがたいのですが、「こういう問い合わせ先があるんですよ」という案内までしてもらえればと思います。
つい先日も鋸南町に取材が来るという話はありましたが、結局なかったようでした。Bay FM(千葉のFMラジオ局)でも、県庁の担当者にインタビューをするという話がありましたけど、それもなくなってしまったようで…。そういった話が流れてしまうというのは実に残念なことですね。我々の宣伝をするわけではないので、「こういうところがあって、ちゃんとやってくれる業者さんがいますよ」というところをもっともっと行政の方からアピールしてもらいたい。広報誌などは時々出るのですが、やはりもっと周知しないと結局進まないというのと、「なぜ進まないのか」という本当の理由をもっと明らかにしていかないと、いま打っている手が正しいのかということも検証できませんから。
竹脇社長の見解、考え
――ご自身で鋸南町や南房総、館山を回られて、復旧が進んでいないことに対する社長ご自身のお考えや見解などはありますか?
わたしも南房総の方に行った際には、いつも館山や南房総、鋸南町と役所を回るのですが、やはり担当者の方々がまだ忙しいので、なかなか話をゆっくり聞いてくれる機会がありません。対応に追われてなかなか次の手を打てていないというような状態なのかなという気はしますね。
ただ、「お金がない」「予算がない」というのが一つの要因なのではないかと考えられます。古い家だと、火災保険にも入っていないご家庭などもあります。またもらえる補助金の上限も決まっているので、その範囲内でなかなか直し切ることができないというケースもありますね。そこに対しては、補助金の範囲内だけでとりあえずブルーシートが外せる状態まで、というような方法も実は考えたんです。瓦を直すのではなく、壊れた部分にだけ強力な防水シートを貼るというものです。それで雨露を何年間もしのぐというような方法も考えて、実際に施工していく段取りもしました。
ただしそのお話を地元の人に投げかけてみても、なかなかお返事をいただけないという課題も見えてきました。
――台風をはじめとする災害発生時の建築業者の役割について、ご自身のお考えをお聞かせください。
それは災害の内容によって変わります。地震であったり、台風であったり、水害であったり。それぞれ対応が変わってきます。
総じて言うと、例えば災害があってすぐというのは、とりあえず飛んでしまったもの、壊れてしまったもの、浸かってしまったものなどをまず撤去するという作業があります。土砂崩れの場合もそうですね。そういった撤去だったり、道路や山が崩れた場合の処理だったりというのは、基本的に建築業者というより土木業者の方で対応します。また家屋の中で壊れたものを出していく作業は、ボランティアの方々が行なってくれる場合が多いです。そのように、災害が起きた後の撤去や救出などの初動というのは土木業者やボランティアの方、もしくは自衛隊などがあたります。
われわれ建築業者が動くのはその後で、損壊した家屋を見て回り、修理の手配をしていくという役割があります。また応急的にブルーシートをかける作業も、大工さんなどが手分けして行うようなケースもありますね。
それと並行して仮設住宅の建設があります。ただ昨年の千葉の台風の場合は、一部損壊が多かったためにそこまで需要が多くありませんでした。しかし今回の熊本の豪雨でも、仮設住宅の建設がもう始まっているというニュースがありましたよね。災害が起きてからたった1週間で着工というのはものすごく早いです。
――熊本の仮設住宅建設も、やはり国から要請があってスタートしているのでしょうか。
要請は県からで、さらに元をたどると市町村です。市町村で「うちは何戸欲しいから建ててほしい」という依頼があって、県が動く。そして県の方で決定して、今度は国の方で予算が後から下りるという形です。「こういう災害でこれだけの被災者がいて、こういう状況の時にはこういうものを建てる」という決まりがあるのですが、具体的な要件については各市町村と県で決めてよいということにもなっています。
そのため熊本では、通常の仮設住宅は板金の屋根ですが、今回は瓦を使うようです。板金の屋根だとどうしても雨音が気になります。先ほどお話ししたように熊本には瓦屋さんがいるので、雨音のしない静かな仮設住宅にするために瓦の屋根を使おうということだそうです。
ただ一般的に2年以内の居住が想定されている仮設住宅では、そのような設計はなかなかありません。本来は災害救助後の2年間しか原則使えないということが決まっているのですが、家が壊れて避難する方は特に地方だと高齢者が多いという傾向があります。そして今回の熊本の被害が大きかった地域では、被災者の多くが高齢者の方でした。そうすると、家が壊れてもとても建て替えや再建築が不可能です。親戚に身を寄せるといった対応ができる人はよいかもしれませんが、そうではない方が多いと思われます。
そのため集落ごと仮設住宅に入るような形も想定して、木造の基礎もコンクリートでしっかりと造っており、「仮設」には見えないくらいしっかりした家を造っています。法律上は仮設住宅でなくてはならず、プレハブで問題ないところなのですが、仮設住宅での生活が長期間になることを想定して木造で建てているということです。
とはいえ、短い期間で多くの仮設住宅を建てなくてはならないため、他ではプレハブの仮設住宅も建てています。実際に熊本地震の際にも563戸の木造を建てたものの、それに対してプレハブの方が多く、何千戸と建てられました。東日本大震災の際も、木造の仮設住宅1〜2千戸に対して、プレハブは6〜7万戸も建てられています。木造の仮設住宅に入居できる人はどうしても限られてしまうため、木造仮設住宅は長く住めるような仕様にしています。
――熊本豪雨の被災地では仮設住宅の着工までに1週間とのことでしたが、本来はどれくらいかかるものなのでしょうか?
本来は3週間以内に着工することと決まっています。
なぜ今回の熊本での対応がこんなに早いかというと、4年前の熊本地震で経験があるからです。図面起こしから業者の手配、打ち合わせなどの工程を、何も準備していない状態でゼロから行うのと、経験や備えがある状態から行うのでは全く異なります。
実際、熊本地震の時は着工まで1ヶ月半くらいかかっていました。ですが今回は、災害発生当日の日中からすぐに動き始め、1週間で着工に漕ぎつけたと。県の方でも予定地はいくつも計画してあり、そこに建てる場合の図面の案も出してあった。災害が起きてすぐに図面を起こして見積もりを出し、着工に向けて動き出す準備はできていたのではないかと思います。
――災害が過去に起きている地域ほど対応が早くなっていくんですね。千葉県でも次にもし災害が起きてしまった際には、さらに迅速な対応が可能になるのでしょうか。
仮設住宅建設の需要が生じた場合には、熊本の例と同じ仕組みを使うことで早く対応できるでしょう。千葉で応急修理対応の協定を私たち工務店同士が結んで運用しているように、熊本ではつい先ほどお話ししたような仮設住宅建設において協定を結んで運用しています。
ただし熊本では仮設住宅の協定はできているものの、今回の千葉のような応急修理の仕組みはありません。協議会が県から受けた応急修理対応の依頼を、そこに属している工務店に振っているだけで、そこからは各業者が個々に対応している形です。
そしてこの度、熊本でも応急修理の協定を追加しようことになり、先日私が全木協千葉県協会を代表して説明に行ってきました。しかしこの協定というのは千葉県が全国で初めて取り入れた仕組みで、それ以前に事例がないため、私が短時間で説明をしてもなかなか内容が伝わりませんでした。
現在熊本では仮設住宅の建設が全木協の中心事業になってしまっているので、さすがに応急修理にまで手が回らないという要因もあります。まだ応急修理対応の仕組みを作る段階ではないのですね。我々は仮設住宅の建設がなかったから、応急修理対応に注力できたわけです。
両方同時に進めるとなると、業者の数ももっと必要ですし、それぞれにリーダーを立てる必要もあります。とはいえ千葉では毎年、仮設住宅建設の訓練も行なっていて、応急修理と仮設住宅建設を業者ごとに分業できる体制にもしています。
――今後も熊本県への助言というのは続けていかれるのですか?
今回のような要請があれば、続けていきたいなと思います。
今回の豪雨では熊本以外でも、岐阜の高山や長野でも被災しています。福岡の大牟田にしても、大分の日田でも同じように水害に遭っているわけです。各県がその応急修理をどのように対応していくのか、それぞれの自治体でそれぞれの仕組みがあれば、迅速に対応することができるでしょう。今まで通りの仕組みでうまく対応していくことが出来ればよいのですが、もしそれでは出来ないとなった時に、我々のような仕組みが活きてくるはずです。そのため、要請があった時にはいつでも行けるようにしています。我々も現在進行形でやっていますから、微力ながらお手伝いできるのではと思います。